京都の春を彩る風物詩「都をどり」。2016年(平成28年)から本拠地・祇園甲部(ぎおんこうぶ)歌舞練場が耐震化に向けて休館中しているため、2019年(平成31年)の「都をどり」は2018年(平成30年)11月改装工事を経て生まれ変わった南座での開催であったため、新しい南座に行きたいという目的もあり、事前にチケットを購入し「都をどり」に行ってみた。毎年出かけるのが楽しくなる春に開催しているこのよい機会を利用して、心を休め優雅な非日常を味わってもらう「母の日のプレゼント」としてもおすすめしたい公演だ。
◆目次
「都おどり」とは
「都をどり」は、赤く美しい秋・しっとりと雪景色を楽しむ冬・華やかで明るい桜の春など、京都を彩る四季と、四季折々に魅せる京都の名所旧跡を豪華絢爛な舞台にあしらい、京都最大の花街・祇園甲部の芸舞妓が磨き抜かれた伎芸を披露する舞踊公演である。
「ヨーイヤサー」の掛け声を合図に始まる都をどりが初めて開催されたのは、1872年(明治5年)。戦争時期の数年を除き、百数十年物間続く京都の伝統だ。踊りは井上流で、現在は人間国宝の五代目家元・井上八千代さんが指導と振付を手掛けている。井上流の特徴としては腰を下げすり足で動き、腰から上の上半身で感情を表現することが上げられる。
2019年の都をどりは「お茶席」がない
開演前に舞妓さんが点ててくれるお抹茶とお茶菓子が嬉しい「お茶席」が、2019年の南座の公演ではなかった。その代わりに、通常だと別途購入が必要なプログラム(写真帳)が進呈される。
お茶席がなく可愛いらしい舞妓さんを間近で見れないのは残念だが、このプログラムの進呈は非常にありがたい!というのも、分厚いプログラムには行われる演目の解説と歌詞が掲載されているからだ。、開演前の数分でこの解説を読むのと読まないでは、上演内容の理解度に各段の違いが出る。
演目はすべて昔の日本語で唄われるため、現代語しか使わない一般人には、すんなり理解しにくい部分がある。事前に解説を読んでおけば、物語の背景を把握ができるため、難しい言葉であっても耳に頭に入りやすいのだ。
期間中踊りは1日に3公演あるため、芸舞妓さんは開催日によって交代制で舞台に立つ。持ち帰りその日見た芸舞妓さんをチェックするのも、この写真帳(プログラム)の楽しみ方のひとつだ。お気に入りの舞妓さん芸妓さんを写真で確認し、その美しを回想するのに役立つ。
見事な長唄!麗しき伝統美にうっとり
鴨川をどり(先斗町)や北野をどり(上七軒)には行ったことがあったが、都をどりは今回が初めてであった。鴨川をどりと北野をどりに比べ、都をどりはご贔屓客様や玄人の方々より一般の方や観光客が多い印象であったが、南座という行きやすい場所柄もあってか外国人や若い女性客も多く、伝統的な日本の美しさを多くの人が楽しめ伝統が育まれることは大変結構なことだと感じた。
芸舞妓さんの舞は言わずもがな。今回改めて感じたことは、長唄と浄瑠璃が素晴らしすぎるということ。都をどりでは、鳴り物や唄・語り・三味線全て女性による演奏なのだが、音を奏でる女性たちは皆黒紋付が決まったお師匠さん方と思しき女性たち。演奏するお姿は、きりりと引き締まった表情に伸びた姿勢、押しなべて麗しくかっこいい。
長唄・浄瑠璃は、わびさび文化の凝縮と言おうか、息をのむ張り詰めた空気と、もののあわれが心にストンと落ちてじわりと浸透する感覚。緊張を感じる反面、何度言えない心地よさも感じる。日本人ならではの感覚なのだろか。とにかく感動を覚えた。
花で例えるなら、日本の美・生け花だ。生け花と西洋のフラワーアレンジメントの違いは、花と花が織りなす「空間」にある。生け花は配置によりあえて「余白」を作り、花が持つ線や面に緊張感と広がり与える。フラワーアレンジメントは、集合体にしたり色で楽しんだり「花そのもの」にスポットを当てる。ここで言う生け花での「粗と密」が、長唄・浄瑠璃にも当てはまる。
絶妙な間合いによってできる空(何もない)と色(何かある)、何もない空間に見えない感情を乗せながら、色をより引き立てることができる。力強さと儚さと優雅さ、見事なバランスによって一体化される、これが日本の伝統の心魂というものだろうか。
実に見事であった。
2019年都をどり・演目
第一景・・・置歌(長唄)
第二景・・・初恵比須福笹配(長唄)
第三景・・・法住寺殿今様合(長唄)
第四景・・・四条河原阿国舞(長唄)
第五景・・・藁しべ長者出世寿(浄瑠璃)
第六景・・・桂離宮紅葉狩(長唄)
第七景・・・祇園茶屋雪景色(長唄)
第八景・・・大覚寺桜比(長唄)
都をどりと鴨川をどりの違い
余談だが、「都をどり」と「鴨川をどり」を見てみて感じた違いを述べるとすると、都をどり(祇園甲部)は芸舞妓さんたちが華麗に舞う踊りがメイン。全8景・一幕で構成されており、舞台上に所せましと総勢約60名の芸舞妓さんが並びあでやかに舞う「総おどり」は圧巻である。
一方鴨川をどり(先斗町)では、二部構成でストーリー性のある演目で構成されている。演者の台詞があり、人情で涙を誘うものから、くすりと笑えるユーモアのあるものまで、お芝居や芸をじっくりと楽しめる。難しい言い回しは少なく、分かりやすい言葉が使われている。
いずれも、日々の磨き抜かれたプロフェショナルな芸を堪能できるエンターテイメントである。
「母の日」にぴったりな開催日程
京都へは、大阪市内・神戸・奈良・滋賀など関西圏に住んでいればどこからもおよそ片道1時間内で行くことができる近場の観光地だ。
「都をどり」は毎年桜が綺麗な4月上旬から下旬に開催されるため、少し早めの母の日にうってつけだ。「都をどり」でなくとも、京都の春には4つの「踊り」が催される。1のつ開催時期を逃したとしても、別の「踊り」に母を伴い訪れるのもよい。
春に開催される4箇所の京踊り
1. 3月下旬~4月上旬頃:上七軒(京都市上京区)の「北野をどり」
2. 4月上旬~下旬頃:祇園甲部(京都市東山区)の「都をどり」
3. 4月上旬~中旬頃:宮川町(京都市東山区)の「京おどり」
4. 5月上旬~下旬頃:先斗町(京都市中京区)の「鴨川をどり」
いくつになっても女性は「美しいもの」が好きなもの。豪華な着物に華麗な舞台と、舞妓・芸妓の優美な舞で、母の日は日常を忘れる雅の時間を共に過ごしてみてはどうだろうか。ちょっと贅沢なランチでもプラスすれば、不機嫌な母も不仲の義母も、必ず満足する母の日となるだろう。
「都おどり」は、かなりおすすめ。