人間力を高める方法は
野比のび太が知っている!

怠惰・他力本願、そんな言葉がよく似合うご存知『ドラえもん』の野比のび太。6巻の最後でとうとうドラえもんが未来へ帰る時には、ドラえもんに心配させまいと、ジャイアンとのケンカに自力で挑み忍耐強く勝ち抜く姿により、のび太がただの腰抜けでないことを証明した。

そんなの序の口のび太は、しなやかに社会を生き抜く人間力を持った男であることを、漫画『ドラえもん』と共に紹介しよう。

のび太の”待つ力”と、”順応力”

てんとう虫コミック『ドラえもん』14巻収録「無人島へ家出」より。
両親でひどく叱られた日のある夜のび太は、ドラえもんの持つ秘密道具を数点こっそり盗み出し、タケコプターで家出を計る。ちょうどよい無人島にたどり着き、道具を使って生活を始めるのだが、持ってきたのは手品のピストルや、モグラ手袋・掃除機・勉強するための機械に、さすと雨が降る傘など、どれも役に立たない物ばかり。諦めて帰ろうとするが、タケコプターは頭に付ける直前に飛んで行き、家に戻ることができなくなった。

「ドラえもんは必ず助けにきてくれる」そう信じ、役に立ちそうもない道具を駆使して、無人島で暮らすこと10年。ドジでのろまなのび太は、実は10年もの長きに渡るサバイバルを経験しているのだ。結局役に立ちそうもない道具のひとつが、実はSOS発信機であったため、のび太は10年の時を経て、ドラえもんに再会。タイムマシンとタイム風呂敷で、10年前の家出直後ののび太の生活に戻ることができた。

「明日には来るだろう」「明日こそ来るだろう」そう信じて待つのは、容易ではない。発狂してしまう者もいるだろう。無謀にも海を渡ろうと考える者もいるだろう。しかし、のび太はじっと待ち続けた。自暴自棄にならず猜疑心もない、ドラえもんを信じる気持ちがあるから、10年もの間待つことができるのだろう。

そして、驚くべきは順応力だ。使えそうにない道具を、偶然ではあったが有用に活用できる方法を見出だし、難なく生き抜く。また、社会に戻ってきてもサバイバルという武勇伝を鼻にかけることなく、10年のブランクも感じさせず、のび太のあるべき姿「ドジでのろま」を普段通りにやってのけるのだ。

素直な心で人を信じ、どんな環境でも適応できるという高度に生活力のある男、それがのび太である。

のび太の”発想力”

ドラえもんの未来の秘密道具は、私たちに夢を与える。しかしのび太はその上を行く発想力で、生活を豊かにすることができる。

てんとう虫コミック『ドラえもん』10巻収録「夜を売ります」より。こればかりは使い道がないとドラえもんもさじを投げた秘密道具「つけると暗くなる電球」。ここでのび太の企業センスがきらりと閃く。日中に眠りたい人、映写機を使いたい人、雰囲気のあるデートを楽しみたい人など、暗い空間を求める人に1時間単位で料金を取るというシステムだ。そしてまた「夜を売ります」というネーミングが最高。暗闇でも影でもなく「夜」という響きは、睡眠・大人・闇など、想像に奥行きを感じる。

また17巻収録の「驚音波発振機」では、驚音波でゴキブリ・ネズミ・シロアリ等を退治する機械・驚音波発振機の、肝心な”驚音波”音源をドラえもんがなくしてしまい、使えなくなっている時も、のび太の商魂たくましい発想力が発揮された。ゴキブリ・ネズミで困っている人々と、歌いたくて仕方がないジャイアントを融合させ、ジャイアンの歌声を内緒で使ってネズミ退治を行う商売を思いついたのだ。もちろん、最後はジャイアンにばれてしまうというオチではあったのだが。

のび太には、類まれなる商売気と秀でた発想力で、今あるものを便利でお金になるものに変える力があるのだ。

のび太の”黙る力”

てんとう虫コミック『ドラえもん』19巻収録「影とりプロジェクター」では、スネ夫がテレビ局の知り合いから聞いたという今をときめくアイドル・星野スミレのひみつの情報を、自慢げに話す。悔しがったのび太は、星野スミレひみつを探る道具はないかとドラえもんに頼んだ。

そこで出てきたのが”影とりプロジェクター”。”影とりプロジェクター”は、本人の影をそのまま映すプロジェクターで、のび太とドラえもんは星野スミレの一日を影で追った。夜遅くまで休みなく働いた後家へ到着したようだが、何だかひどく驚いているような様子であった。

心配になったのび太とドラえもんは、星野スミレの家に行ってみると、星野スミレに一方的に言い寄る二枚目スターの落ち目ドジ郎がいた。のび太とドラえもんは、困った様子の星野スミレを守るため、落ち目ドジ郎を何とか追い払った。

感謝した星野スミレはのび太とドラえもんを家へ招き入れ、二人に話をしてくれる。その時の様子をのび太は最後にこう締めくくっている「星野スミレは、ぼくたちだけにひみつを話してくれました。遠い国にいる、好きな人のことを。でもそれをここでかくわけにいきません。ごめんね。」と。

スネ夫に負けない星野スミレのひみつを探すための道具であったにもの関わらず、のび太は決して彼女のひみつをスネ夫どころか、読者にも話すことはなかった。

2巻収録「オオカミ一家」でも同様に、ジャイアンとスネ夫に馬鹿にされるのが悔しくて日本オオカミを探しに出たものの、オオカミ家族に触れ家族を命がけで守るオオカミの父親を知った後、のび太は日本オオカミの存在を公表せず、ジャイアンとスネ夫に馬鹿にされるのを甘んじて受け入れる。

のび太は軽率なところがある、しかし言ってはいけない大事なことは決して言わない。行動だけが人を守ることではなく、何もしないことが時に相手を守ることになる。黙ることが大切な人を守ることだということを、のび太はよく知っているからだ。



のび太の”決断力”

てんとう虫コミック『ドラえもん』3巻収録「ミチビキエンゼル」より。どうも体調がすぐれないドラえもんを、学校からの帰り道の途中で呼び出すのび太。明日テストがある、でも遊びに誘われた、家に帰るために左へ行くべきか、遊びに行くために右に行くべきか、どちらがいいかとドラえもんに問う。ドラえもんが出した秘密道具が”ミチビキエンゼル”。その名の通り迷える人を導いてくれる。ただ”ミチビキエンゼル”は少々手荒で小うるさい。言うことを聞かなければさらに恐ろしい。

そんな時ドラえもんの調子が悪い原因が、ネジをひとつなくしたことによることが分かり、探しに出るのび太、言うことを聞けと暴れる”ミチビキエンゼル”。それでものび太は、ドラえもんの方が大事だと、”ミチビキエンゼル”に殴られようが、ジャイアンに絡まれようが、必死でネジを探す。

道の真ん中で、右に行けばいいか左に行けばいいかさえ決められなかったのび太だが、肝心な時には、誰が何と言おうとも迷いがない決断力を下せる男なのである。大切な人を守るためならば、その決断力は揺るぎない。

まとめ

以上のことから、のび太はのび太のの美学を持って生きていることが、お分かりいただけたかと思う。素直な心で人を信じ大切にし、環境にもよく馴染み、優れた発想力によって商才を発揮する。またのび太の人間力は折り紙付きで、到底無理だと思えるような夢、つまりは高値の花であるあのしずかちゃん(しずちゃん)を妻にすることに成功しているのだ。

悩んだ時行き詰った時、未熟な自分に苛立ちもっと伸び伸びとこの世界を謳歌できたらと思うだろう。そんな時に、のび太のしなやかな人間力が役立つ・・かもしれない。


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