「にごりワイン」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
「にごり酒」や「おりがらみ」は日本酒ではよく聞く種類だが、ワインで「にごり」は珍しい。普段ワインを飲むことが少ない日本酒党の私が、「にごり」の3字に魅かれて飛びついた「にごりワイン」が何とも美味であったので、日本酒好きにおすすめするワインとして紹介する。
濁っているのに、濁らない鮮やかな旨味
出会いはあるデパートのリカー売り場。日本酒の銘柄をまじまじと見つめていた時に聞こえてきた「珍しいにごりワインの試飲を行っております」という声。「にごり」と聞いてうずいた足が、勝手に試飲ブースに直行していた。
試飲でいただいたのはここで紹介するヒトミワイナリーの『ドゥーブラン』。日本酒のおりがらみに似た、可愛くクリーム色をした薄にごりの白ワイン。ラベルはシンプルなうえに、ボトルの中身を強調するために、通常より控えめな大きさでボトルの下寄りに配置されている。ボトルの見た目から「にごり」であることが見て取れるような外観となっている。
飲んでみると、フレッシュで爽やかな葡萄感が口いっぱいに広がった。果実味を残すために、低温醗酵させているらしい。フルーティーな酸味と甘みを感じるが、ワイン特有の渋みや青臭さは全くない。澱(オリ)があるためか酸味がぐっとまろやかになっていて、刺さる感じはなく優しい口当たり。美味しい!フルーティーな日本酒の感覚に似ていて、食前酒に呑めばお口も心も弾みそうである。出汁の効いた数の子なんかと一緒に食べるといい。
もちろん購入した。
最後の飲み切りでは、瓶底にどうしても澱(オリ)が溜まってしまう。その澱(オリ)を必死に出そうとするが、なかなか最後まできれいに取れない。それが何とも歯がゆい。愛しいけれど憎らしい一本であった。
にごりワイン専門・ヒトミワイナリー
1991年設立のヒトミワイナリーは、マザーレイク・琵琶湖の南側に位置する滋賀県東近江の、自然豊かな地域にある。滋賀県では米作りが盛んで日本酒の蔵元が多くある中、滋賀県内で営む数少ないワイン醸造所である。またヒトミワイナリーは、2006年からは完全に「にごりワイン」のみを製造するにごりワイン専門のワイナリーとして、日本ワインの中でも際立つ個性を放つ存在となっている。
原料となる葡萄は、滋賀県内ほか日本国内で栽培された葡萄を使った100%日本産。そして、日本の葡萄の味を追求した結果生まれたが、「無濾過」によってできた「にごり」というスタイル。通常の発酵過程で出るもろみは濾過されるため透明になるが、濾過せず葡萄の旨味をそのまま瓶詰めされたのがこの「にごりワイン」である。
日本にこだわった酒造りが日本酒に通ずるものがあり、その日本人の本質的なものづくりの信念と本物の味が、どの国の物でも気軽に買える消費グローバル下においても、支持を受ける理由なのだろうと納得した。