英語学習のモチベーションアップにおすすめ
インド映画「マダム・イン・ニューヨーク」の感想

何事も知らないより知っていた方がいい。一生同じ自分と向き合うのもよいが、新しい自分を見つけるのはもっと楽しい。習うは一生、学びは人生を扉を開いてくれる。その扉の鍵は、いつもあなたが持っている。何かを学び続ける人、そして新しい自分を探している人、そんな人々の一歩を後押ししてくれるような映画『マダム・イン・ニューヨーク』を紹介する。


あらすじ

インドに暮らす慎ましやかで古風な専業主婦のシャシは、娘と息子と義母と、そして妻に保守的であることを求める夫の5人暮らし。得意なことはお菓子作りで、近所にも評判がよい。苦手なことは英語。英語では夫や娘にまでも馬鹿にされ悔しい思いをしていたところ、ニューヨークに住む姉家族の結婚式を手伝いに、一人旅立つことになる。

苦手な英語とニューヨークでの生活に心細くなりながらも、目に留まった「4週間で英語が話せる」という広告に、自分を変えるチャンスを見出し、家族には内緒で英語教室に通うことになる。

英語教室を通じて出会った多種多様な人々との交流を経て、学ぶことの喜びを感じ新しい自分を発見し、英語コンプレックスでなくしかけた自信を取り戻していく。

新しい言葉は、新しい世界を連れてくる

この映画で主人公のシャシが見つけた新しい世界、まずひとつは言うまでもなく「英語」だ。

新しい言語は新しい人々との交流をもたらす。英語教室では、同じくインド出身の生徒のほか、フランス・メキシコ・アフリカ・パキスタンと国際的、それに加えて教えてくれる先生はゲイ。多様性に富んだ仲間が、やがてシャシと心を通わせる親友になる。

英語は日々の生活を忙しく張り合いのある明るいもに変える。見るもの聞くもが新鮮で、どれもが新しい学びになる。一杯のコーヒーさえも買えなかった主人公が、コーヒーを片手にニューヨークの街を美しいサリーに身を包み闊歩する姿は、誇らしくさえ見える。

また言葉とは、文化そのものだ。日本語には日本人の精神が宿るように、英語は自由な考えをもたらしてくれる。それがシャシが見つけたもうひとつの新しい世界「アイデンティティ」だ。

夫には主婦業に専念しろと言われ断念しかけたシャシのお菓子を作りを、英語教室の先生は「Entrepreneur(起業家)」と表現した。またシャシが知らない英単語「Judgemental」の意味を問うた時、姪は「叔母さんを知りもせずに、インドの古臭い専業主婦と”決めつける”こと。本当の叔母さんは自由な考えの持ち主であるのに。」と、言葉の意味と共に、”自分らしさ”に目覚めるきっかけを与えてくれた。

家族によって、そしてシャシ自身によって縛り付けていた「こうでなければならない」という頑なな自分自身の在り方を、新しい世界によって徐々に開放していく。


言葉には、尊重と思いやりがなければ

この映画の面白いところは、それぞれ違う母国語同士で会話する主人公シャシと、シャシに思いを寄せるフランス人との心の交流。そして、言葉が通じるはずの娘や夫とは心が通じ合わないという正反対を、同時に映し出しているところだ。

言葉は通じないが、通じ合う心

同じ英語教室のローランとシャシは、たびたび母国語同士で会話するシーンがある。お互いに違う言語を話す、それでも放たれたその言葉が、怒りを表しているのか感謝を表しているのか、そして愛を伝えているのか、言葉に”心”が乗っていれば、相手には通じる。それが「心が通じ合う」ことに他ならない。

個人的な話であるが、私は現在オンライン英会話で英語を習っている。ある先生の初めてレッスンで、とても印象的な言葉があった。その先生は「最初はフリートークから始めましょう。英語は勉強ではなく、コミュニケーションの手段です。だから、相手がどんな人間か知らなければ、心を通わすことはできません。」

中学校から授業として英語を習い、長年”英語は勉強するもの”として認識していた頭のギアが、ニュートラルに変わるような気持ちであった。英語であれ日本語であれヒンディー語であれ、「言葉は相手を知る手段・自分を伝える手段」なのである。逆に言えば、伝えたいという気持ちが強ければ、どうやっても通じるものなのである。

言葉が通じても、通じ合わない心

シャシがローランと言葉を超えた心で通じ合う一方で、娘と夫は心ない態度と言葉を投げたまま、シャシの心をどれほど傷つけているのか、理解することはない。同じ言語を話す者同士でも、相手を思いやる気持ちがなければ、心を通わすことは難しい。

「ゲイは悲しまない」英語教室の生徒の一人が、失恋したばかりの英語教室の先生に対し陰で言った言葉だ。その言葉にシャシは、あなたから見て変でも、彼から見たらあなたこそ変だと諭す。妻であっても、母であっても、ゲイであっても、傷つく心は皆同じであるのだと。言葉がどれほどの破壊力を人に与えることを知るシャシの、思いやりを何より大切にしていることがよく表れたシーンである。

言葉は使い方を間違えれば、時に人を傷つける。上手く使えば、この広い世界で見知らぬ誰かと心の会話ができる。「言葉は通じないが、通じ合う心」と「言葉が通じても、通じ合わない心」、この明らかな二極を示すことによって、言葉よりも大切なことを表現している。



美しきマダム・シュリデヴィ

主人公シャシを演じるのは、インドでは知らない者はいないほど有名な女優・シュリデヴィ。
4歳の時にタミル語映画でデビューしてから、300本以上もの映画に出演した。男性優位のインド映画産業で、インド初の「女性スター」として人気を集める。結婚と育児を期にしばらく表舞台を離れていたが、2012年公開のこの映画『マダム・イン・ニューヨーク』で、15年ぶりに復帰した。

シュリデヴィが出演する映画はどれもそうに違いないが、『マダム・イン・ニューヨーク』でも彼女の輝く美貌は、映画全体の魅力になっている。家族に尽くし家庭を堅実に守ろうとする健気な姿勢には、インド人女性の奥ゆかしを感じさせる。英語によって広がった世界に生き生きと、瞳をキラキラさせて夢中になる姿には、女性が自立してより強く美しくなっていく過程を上品に、しかしエネルギッシュに魅せてくれる。

『マダム・イン・ニューヨーク』公開から6年後の2018年2月、シュリデヴィが54歳の時に、突然の急性心不全でこの世を去った。

鮮やかに生きる喜びを表現し、こんなにも輝いている美しい人が、もうこの世にいないかと思うと、とても悲しい。それと同時に、今生きている世界が儚い夢の一部なら、何にでも一生懸命におもしろく『マダム・イン・ニューヨーク』のシャシのように、悪夢も吉夢に変えて生きていくのが、与えられた命に素直に向き合う生き方ではないかと感じる。



Nobody can help you better than you

「人は自分のことが嫌いになると、自分の周りも嫌になって、新しさを求める。でも自分を愛することを知れば、古い生活も新鮮に見えてくる。」

主人公シャシは英語を通し、もうひとつ新しい世界「自分を愛すること」も学んだ。家族と自分が”対等”であることを感じられなくなっていたのは、彼女自身の問題であると気づいたのだ。シャシがそんな考えに至るまで手厚く救いの手を差し出したのは、家族でもなくクラスメイトでもなく彼女自身であった。

この映画の結末で述べられたことは、この映画のシャシのように、自信を掴むきっかけには、誰もがまったく新しい世界に飛び込べきだと言っているわけではない。なぜなら、その新しい世界は時が経てば、やがて古く珍しくない世界になる。
そうではなく、シャシが英語という道具を使って新しい考え方を取り入れたように、意識を変えるだけで、今ある世界が新しく新鮮に見えるということ。そして、どこにいても自分を変えれるのは、自分であるということだ。

『マダム・イン・ニューヨーク』を見れば、新しい”自分”を見に何かに頑張りたくなる。そんな活力をくれる映画である。さぁモチベーション上げて言語学習に、そして今ある何かに頑張ろう。


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