「ル・ポールのドラァグレース」シーズン1の見どころ

「ル・ポールのドラァグレース」という伝説の始まりとなるシーズン1では、カメルーン出身のベベ・ザハラ・ボネットや、中世的で個性的なニナ・フラワーズや、クラシック映画の様相で異彩を放つタミー・ブラウンなど、初回とは思えぬほどの選りすぐられた個性派が集結した。そんな粒ぞろいメンバーが集まるなか、一番の見どころは、ドラァグクイーンの「気の強さ」。各々が気の強さを発揮すれば発揮するほど、番組はメラメラと白熱するものとなった。


テレビ的には最高!シャネル(shannel)

自身を、エキゾチックで派手で華やかであると説明するシャネルは、絢爛なドラァッグクイーンだ。パフォーマーでありショーガールでもある彼女の身に着ける衣装は、ゴージャスなものからアニメーションの世界から飛び出してきたようなファンタジックなものまで、圧倒される美しいものばかり。そのうえ、ジャグリング技術まで持っているという、エンターテイメントに優れたクイーンだ。

そしてドラァグレース史上においても、大きな功績が。それは、シーズン1以降も多くのクイーンがリップシンクで披露することになる「Wig reveal」と言われるウイッグを取ることによって魅せる表現方法を、ドラァグレースで初めて行ったクイーンが、シャネルである。

コンペティションでの彼女は、とにかく勝ちにこだわった。結果的には強すぎる思いが空回りし、彼女自身満足のいくものにはならなかった。その勝気な気性が、ついにファイナルを間近に迫ったエピソード6で、弾け飛んでしまう。

審査員の前に立ったトップ4は、この中で誰が脱落するべきクイーンかと問われた。その時シャネルは、「この時を待っていた。それは”私”です。もうこの場にいたくない」と、動揺の表情を見せるルポールはじめとした審査員の前でそう言い放った。理由は「私は美しく素晴らしいのに、評価では否定的なことしか言われない」からというもの。

高慢?自意識過剰?とも思える理由であるが、数々のショーで活躍しメイク・衣装にも自信のあった彼女のプライドを、辛辣な審査員の言葉で傷つけられ、これ以上耐えられなくなったのだろう。本心ではあるだろうが言わされ感が否めない状況で、審査員は「あなたは美しい」と褒めたたえ、シャネルは舞台を後にしたのだった。

テレビ的に面白さを追求した故意の演出が大いにあるとは思うが、彼女の気の強さはその後のエピソードにおいても出演者全体をヒートアップさせることになる。

Reunited、同窓会で大騒動

シーズン1のエピソード9では、シーズン1の全出場クイーン9名と、ルポール含むメイン審査員3名が大集合した。

その中の一人、審査員のサンティーノ・ライス(Santino Rice)は、『Project Runway』というファッション・デザイナーが優れたデザインで競い合うアメリカのリアリティ番組に出場した経歴を持ち、審査員の中で唯一審査するだけでなく、審査される側の立場も経験している。同じ気持ちを分かち合えるからこそ、叱咤激励の意味を込め、クイーンらのファッションに厳しいコメントをしたのだろう。

審査員に言いたいことは?の質問が、前述した勝気なクイーン・シャネルを再燃させてしまう。「サンティーノの批判のおかげでひどい気分になった」

またやるのか?シャネル・・・職場で度々ヒステリーを起こす同僚を見るように、呆れ顔になる私。
「競技なんだから、厳しい評価を受けるのは当然だろう。それが嫌なら、なぜドラァッグレースに応募したのか?」私を含む視聴者の多くは、そんな気持ちで冷ややかに見ていただろう。テレビ的には面白いけれども。

そこへもってきて、シャネルに加勢するタミー・ブラウン。凍る空気。他のクイーンはというと、曇る表情に泳ぐ目。真に迫るリアリティ番組へと突入していく。

ルポール、降臨!

最初は穏やかになだめていたルポールだったが、収まるどころかどんどんヒートアップするクイーンたちのコンペティション番組であるという理解を逸脱した発言に、ついにはルポールが爆発。コンペティションにおける姿勢と生き方そのもの説いた。

激高しながらも語られたその言葉は、神のような有難いお言葉だった。

あたな達は素晴らしい、しかし自分が素晴らしいという事を忘れてしまっているのは、あなた達の方だ!私たち審査員の責任ではない!!

(今のあなた達のように)「あなたにスターは無理だ」と批判されるだけでお金に繋がるなら、今頃私は億万長者になっているはず。しかし、私は批判を信じずに『私を信じてきた』。この言葉を忘れてはいけない。

誰かが「あなたに(成功)は無理だ」と言うのは、彼ら自身の心の闇を他人に投影するからだ。だからこそ、その言葉に打ち勝たねばならない。

あなた達は、このコンペティションを通して、自信を持つのだ。最初は「私に悪い事を言う」と感じても過程を経て、批判されようがそれを肥やしに自信に変えていく。そうしている内に「この批判は私ではない、批判者自身の事になんだ」と思えるようになる。そうやって消化していくのだ。

人生の中で何度も消化を繰り返すことで、その消化時間はだんだと短くなっていく。でも完全になくなりはしない。

この魔法の言葉を、私たちは普段言わない。だったあなた達は信じないから。だからあたな達は、自らの脚で実際に火の中を歩いて進んでいく。すると「どんな批判でも来ても平気。だって私は素晴らしいから」と、あなた達の自信へと変わっていくのだよ。

ルポールイズムを実生活に活かす

なるほど、「ル・ポールのドラァグレース」のドラァグクイーンは、世間からも審査員からも批判に晒されて大変だ。でもよく考えるとこれって、自分のことではないだろうか?と、そう思えた。

人と意見が合わない、人間関係がうまくいかない、自分だけが人生上手くやれていない気がして、他人の意見やアドバイスを「人格を否定された」ように受け取ってしまう。
また時に、何か新しいことを始めることに対し「そんなのできっこない」と、頭ごなしに否定してくる人がいる。そんな言葉は耳に蓋でもすればいいのに、他人がする自分への意見や批判に心が同期されてしまい、苛立ちや落ち込みといったネガティブな気持ちになるのだ。

では、なぜそうなってしまうのか?

それもこれも、自分が何者であるのか、自分どれほど素晴らしいのかという事を自分自身が忘れているからだ。

「私は素晴らしい」その芯の部分さへ忘れなければ、否定的な意見はポールの言う「批判者自身の闇を他人に投影している」に過ぎず、どんな言葉も消化して自信に変えることができる。

シーズン1では、現在のドラァグレースよりも低予算であることがセットや小道具からも分かる。また現在のきらびやかで番組に比べると、未完成な部分も多い。だからこそ、この番組の本質的な意図が表れているのではないかと思う。そして、「ル・ポールのドラァグレース」は、ドラァッグクイーンのエンターテイナーとしての成長と精神修行を見るだけでなく、私にとっては成長をも促してくれる、ある種の教育番組の要素があることを、確信したシーズン1であった。


ルポール主演のNetflixドラマ『AJ&クイーン』にはルポールからの愛あるメッセージが詰まっている

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