「ル・ポールのドラァグレース」シーズン8の見どころ

コメディとファッションで強さを見せつけたシーズン6のビアンカ・デル・リオ、度胸とファッションセンスと、他を引き離す圧倒的美貌の持ち主であるシーズン7のバイオレット・チャチキ。続くシーズン8は…飛び抜けたクイーンがおらずイマイチか?と思われがちだが、そんなことはない!シーズン8の楽しい見どころを張り切って紹介する。


良い意味で「RuPaul’s Best Friend Race」

シーズン8を振り返えってみると、少々のいざこざはあったものの、全体的にクイーン同士の仲が良く明るく楽しいシーズンであった。嫉妬や仲間割れ・年代の違う者同士の争いなどドロドロの舞台裏は、渡る世間は鬼ばかりのようなスリルがあっておもしろい。しかしシーズン8においては学園ドラマような様相で、”時々けんかもするけれどみんなで力を合わせて卒業しよっ!”という明るいノリのため、終始微笑ましく見ていられた。尖っていて近寄りがたいクイーンもおらず、ユニークで可愛らしいクイーンが多かったのも、楽しい印象を持った要因のひとつだ。

また心が楽しくなるようなおもしろいチャレンジも多かった。特に気に入っているのがエピソード4の「New Wave Queens」。これを見ただけで、どれほど楽しいシーズンであるのか、まずお分かりいただけるだろう。



ユニークで愉快なクイーンたち

ここでは、シーズン8から4人のクイーンを紹介する。他にもシーズン8には、神レベルなナイスボディの持ち主ナオミ・スモールズ(Naomi Smalls)や、独創性豊かなメイクとファッションで目を楽しませてくれるキム・チー(Kim Chi)など、個性的で可愛いクイーンが登場する。

ボブ・ザ・ドラァグクイーン(Bob The Drag Queen)

ボブ・ザ・ドラァグクイーンは、コメディーが飛びぬけている。どんな場面も笑いに変える力は素晴らしい。何より感じることが、ボブ・ザ・ドラァグクイーン本人が本当にその場の笑いを楽しんでいること。大口を開けてガハハと笑って見せられると、万国共通で笑いが生まれる。トップが決まるファイナルステージに応援に来てくれた実兄を、「私より兄の方が色が黒くて、自分が夜11時だとしたら、兄は真夜中」と紹介した時には、笑いと共にボブのセンスに脱帽した。表現うま過ぎ!

人々を明るくしてくれる抜群のコメディーセンスを持つ一方で、ランウェイでのメイクは少々粗さが目立つことも…。シーズン8ではムードメーカーとなり場を盛り上げた功績と、彼女のエンターテイメントに徹する姿勢を見れば、メイクの件はご愛嬌としておこう。

ソージー・ソー(Thorgy Thor)

シーズン8で私が一番押していたのが、ソージー・ソー。音大出身で、ヴィオラ・バイオリンやチェロを奏でカーネギーホールでの演奏経験もある芸術家の彼女は、想像力が豊すぎて、誰も追いつかない遠くまで駆け抜けてしまう。それでいて、おしゃべり好きでいつもお茶目で憎めない。やたらとボブ・ザ・ドラァグクイーンをライバル視するところも、何だか可愛い。

素顔は優しい整った顔立ちをしているのだから、メイクはもう少し目元をはっきりと明るくすればいいのにと思って見ていたら、案の定審査員のミシェル・ヴィサージュ(Michelle Visage)に「目が黒すぎる」と評された。シーズン8に続きオールスター3でも指摘されたアイメイクは、その後改善は見られず現在に至る。なかなかの頑固者である。

デリック・ベリー(Derrick Barry)

ドラァグレースのワークルームに入った記念すべき100人目のクイーンが、デリック・ベリー。ラスベガスのショーではすでに有名人であったデリック・ベリーは、見て分かる通りブリトニー・スピアーズの物まねがオハコ。審査委員からはメイクがドラァグでないとか、水着ばかり着ていると指摘される。その審査員たちの真意は、ブリトニーではなくデリック・ベリーをオリジナリティを見せてほしいという要求だったにも関わらず、「メイクを変えさえすればいい」と捉えてしまったため、思い切って眉毛だけを変えてしまい散々な結果に。一番年下のナオミ・スモールズに薄ら笑いをされながらも、変更した後の眉毛に対し柔順に意見を求める姿を見て、読解力が足りないだけで、素直で一生懸命な可愛い人なんだなと好感を持った。

チ・チ・ドゥベイン(Chi Chi DeVayne)

デリック・ベリーの足りなかった読解力で、差をつけたのがチ・チ・ドゥベインだ。貧しい街の出身である彼女は、劣等感からか当初は少しひねくれた部分もあったが、審査員の評価を真摯に受け入れ我が物にし、短い期間に誰もが認めるほどの急成長を遂げた。そのキーとなるのが彼女の読解力と、素直な心だ。

チチは聞き上手な人なのではないかと思う。別のクイーンたちの話をよく聞いていて、驚いたりニヤッとしたりさまざまな表情でよく反応する。またオールスター3のタレントショーでのチチは、他のクイーンのパフォーマンスを見て、満面の笑みで本当に楽しそうな表情を浮かべている。彼女が素晴らしいものを素晴らしいと素直に受け止め、それを吸収できるからこそ「ダークホース」と言われるほどの急激な成長ができたのだと感じる。

惜しくもトップ3に入ることはできなかったが、『素晴らしいエンターテナーになる方法を教えてもらえただけでなく、良い人間になる方法も教わった。賞金の10万ドルでは絶対に買えない経験』と言って去っていった素敵なチチ。そんなチチの思わず目頭が熱くなる、魂の叫びというようなリップシンクを貼っておく。

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ルポールの言葉は、生きるヒントになる

ルポールのドラァグレースでは、ドラァグとしての表現を越えて、自分自身を表現する事、ひいては生き方を提起するシーンが度々あり、はたと納得することがある。クイーン同士の変な歪み合いがなく平和なシーズン8では、楽しいまま終わるのかと思われたが、エピソード9のいよいよトップ3を選ぶ直前の4人に、ルポールから重みのある言葉が投げかけられた。

『勝者たちに与えられたテーマは「適応力」、そして同時に自分の個性に忠実であること。見えない合図を感じ取り自ら適応していく、ただし自分が何者であるかを見失わずに。それは競技だけでなく、人生のすべてにおいて当てはまる。あなたたちはそれができているからこそ、ここに立っている。』

ルポールのドラァグレースで度々問われる重要な課題が「自分が何者であるか(who you are)」。また、難題を与えられたクイーンたちにルポールが語るアドバイスが、「不得意なものがあっても、自分が得意なものにそれを当てはめてけばいい」ということ。その言葉は、クイーンだけでなく視聴者を含む各々の人生においても、生かされる言葉であることにはっと気がつく。

たとえば、人と話すことが苦手だが人との関わりを持ちたいと思えば、得意の料理でもてなすことができる。職場で実力を発揮できず何をしていいか分からない場合でも、得意の整理整頓で職場環境を快適にし、人の役にたつことができる。小さなことだが、「自分が何者であるか」を表現するには、元々持っている独特な個性がなくても簡単に実現でき、自分らしさと自信を確かなものにしていくことが可能なわけだ。

忙しい日々の生活の中で「私」という存在は埋もれてしまいがちであるが、「和」を体現しながら「自分が何者であるか」を自ら問いかけ一生懸命に没頭して生きる。それこそが、生きる価値を見出し人生の輝きを生み出す生き方ではないだろうか。ルポールの言葉には、生き抜くヒントがたくさん隠されている。


ボブ・ザ・ドラァグクイーンより早かった吉本新喜劇

最後に、披露の場か狭すぎる小ネタをひとつ。

ボブ・ザ・ドラァグクイーンがワークルームに入る際のお決まりになっていたのが、自分より先にクラッチバッグが先頭を行く「カバンが先」スタイル。ちょっと小粋な「PURSE FIRST」というMVまで出しちゃっているわけだが、このニュースタイル、実は日本が先に考案したスタイルである。

シーズン8が放送された10年以上も前に、吉本新喜劇の内場さん演じるアホボンというキャラクターが、毎回長方形のセカンドバッグを胸の前辺りで床と並行に持って真っすぐに突進しながら登場する(曲がる時は直角)という、関西ではすでにお馴染みのスタイルなのだ。
日本とアメリカの笑いのツボが同じであることは、素直に嬉しい。吉本新喜劇と発想が同じ関西ノリのボブ・ザ・ドラァグクイーンに、関西在住の身としてはより親しみを感じてしまうのであった。


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