「ル・ポールのドラァグレース」シーズン5見どころ・感想

最高傑作に近いほど、高レベルなドラァグクイーンが勢揃いする『ル・ポールのドラァグレース』シーズン5。今やドラァグクイーン界のスーパースターのアリッサ・エドワーズやアラスカが出場するこの回。カリスマ・ユニークネス・度胸・才能、この4つを持つクイーンがここまで揃うと、命運を分けるのは一体何なのか?クイーンのメンタリティーについて考えてみた。

シーズン5に見るバトル

ロキシー・アンドリュース(Roxxxy Andrews)のバスストップ事件といった涙あり、そしてアリッサ・エドワーズ(Alyssa Edwards)のおとぼけとあの美貌には不釣り合いな変顔という笑いあり、見どころが多かったシーズン5。テレビ的演出は大いにあるだろうと推測するが、番組内で起こったクイーン同士の『小競り合い』についてまず見ていきたい。

ドラァグクイーンの結束は固い?

シーズン3ではラジャ(Raja)率いる4人が『Heathers(ヘザーズ)』という徒党グループを組んでいたように、シーズン5で、アラスカ(Alaska)・ロキシー・アンドリュース(Roxxxy Andrews)・ディートックス(Deto)の3人がグループを組んだ。グループ名は『Rolaskatox(ロラスカトックス)』。

女性の半数以上は既に小学生あたりで、女性グループの厄介さを経験しているので、こういったグループは煩わしく思ってしまうだろう。ましてや1位を決めるコンペティションにおいては、なおさら。審査員のミシェル・ヴィサージュ(Michelle Visage)は、グループ名前すら覚えたくないほど嫌悪感を示した。

個性の強い3人が集まれば、自然に力関係ができ上がる。このような場合大抵聞き役が損をするのが通例だ。熱いアネゴ気質のディートックスと、負けん気の強いロキシーに挟まれ、穏やかなアラスカは流されてしまいそうになる。しかしアラスカは、シーズン1から応募し続けやっと得た念願の出場だけあって、ドラァグレースの目的を見失わず、自らの優勝を目指しどんなグループにも属さない”フリーエージェント宣言”をしたのだった。



嘘か誠か!?因縁の対決

シーズン5でこれを入れないわけにはいかない、と言うほど大きな話題が、アリッサ・エドワーズ(Alyssa Edwards)対ココ・モントリース(Coco Montrese)。アメリカで最大のドラァグ・ミスコン”Miss Gay America”の2010年度で、優勝はアリッサと決まった後で、なぜか優勝者がココになって以来、2年間口を聞いていないというもの。真相はアリッサがMiss Gay Americaとの契約違反をしたことで、称号を奪われたようだ。

色々あるのかもしれないが、視聴者としてはただ単純におもしろい二人のバトル。昔仲が良かっただけに起こる憎しみ・嫉妬・劣等感など、露骨すぎて小気味よい。またさすがミスコン出身者だけあって、相手の感情を揺さぶるのが得意。アリッサが、いたずらっ子のように笑いながらココのオレンジ・ファンデを指摘するシーンは、アリッサの策士ぶりが見て取れるが、もはや小学生同士の喧嘩のようで可愛らしくもある。

結局ココはアリッサを意識し過ぎ、競技に専念できていなかったように見える。ドラァグレースを、その実力対決で掻き回すつもりが、自らが掻き回されて溺れてしまったようだった。

ミスコン・クイーン対コメディ・クイーン

シーズン5においてミスコン出身のドラァグクイーンは、アリッサ・エドワーズ(Alyssa Edwards)・ココ・モントリース(Coco Montrese)・ロキシー・アンドリュース(Roxxxy Andrews)。アラスカ曰く「ミスコン出身者たちは裏で悪質な心理戦をけしかける」とのこと。

一方のコメディ・クイーンは、1930年代ハリウッド黄金期を思わせる優美な女優の装いと独特のセンスで笑わせてくれるジンクス・モンスーン(Jinkx Monsoon)と、ゆったりとした口調から飛び出す切れ味鋭いワードが笑いを誘うアラスカ(Alaska Thunderfuck)の二人。二人ともコメディ・クイーンなだけあって間の取り方が最高に上手く、それゆえお芝居も達者である。

まずはアリッサとの因縁の対決となったココだが、他のクイーンともいい具合に攻撃態勢を見せる。子供番組のチャレンジでは配役が気に入らないと怒ったり、ボーカル・チャレンジでは、対決するアリッサと故意に組ませたのはディートックスの罠だと主張し、あたり屋役を買って出た。そして一番当たられたのは、シーズン5を通してまさに”シンデレラ”となったジンクスだ。

ミスコン・クイーンはいかに美しいかを魅せるのが得意だ。だからジンクスのように、変り者で独特の世界観を主張し、おもしろおかしく役になり切り演じてみせる姿は、どうも納得できないようで、ドラァグはコメディでないと、ジンクスを激しく非難する。与えられた課題をうまくこなせないという苛立ちと嫉妬でもあろう。洒落が効いてユーモアセンスのあるアラスカも同様に標的となった。

そしてコメディ・クイーンをたたくミスコン・クイーンがまた一人、ロキシーである。法廷ドラマにチャレンジするシーンでは、それぞれの登場人物に対し、名前・年齢など背景を事細かに設定し役に臨んだジンクスとアラスカに対し、なぜおもしろくしなければいけないのか・なぜ役に名前まで勝手に付けなければいけないのか、激しく攻め上げた。ドラァグを”美”で極めようとするのがロキシーの美学であるからだ。

特にジンクスへの当たりは相当厳しいものがあった。その構図は完全に、”シンデレラ”と”激高する姉”。それもロキシーの策略で、ステージ前に相手をイライラさせて集中力を削がせるという心理戦である。あまりのいじめっ子ぶりにSNSでの批判が多かったことと、レースから時間が開きオンエアーを見て初めて自分の行動が分かったからなのか、ファイナルではジンクスに心からお詫びの言葉を述べている。

しかし、最終レースでジンクスをいじめるロキシーという”名ヒール”がいたからこそ、”シンデレラストーリー”が完成したとも言える。視聴者の一人としては、ロキシーに助演女優賞の称号を渡したいくらいだ。



トップ3、決め手は?

トップ3に残ったのは、ロキシー・アラスカ・ジンクスであった。

ドラァッグレースで勝ち抜くには、当然のごとく私は素晴らしいと思う自信が必要だ。しかしどのクイーンでもある程度の酷評に晒され、あらゆる評価が飛び交う中で、自信をキープすることは困難なようだ。

ミスコン出身のロキシーは、誰が見ても美しくそのうえ、カリスマ・ユニークネス・度胸・才能の揃うクイーンである。しかし最終局面で、自信に揺らぎが出始め、その弱さを隠すために、ジンクスを攻撃するとい手段を取った。その様子を当のジンクスは、
「他人を蹴落とすのは、未熟さと挫折感をさらけだすだけ」
と冷静に語る。自分へ集中する代わりに、相手を落とす方向へエネルギーを使ってしまったのだ。

トップ3は、決戦前の最終自己アピールの場「なぜ自分がAmerica’s Next Drag Queenに相応しいのか」の質問に臨むにあたり、有名弁護士に弁論のレクチャーを受ける。その中でアラスカは弁護士の指示に従い、本番では競争相手のマイナス要素を指摘する弁論を行った。しかしロキシーとジンクスは、相手の非を責める弁論は行わなかった。彼女らの美学に反するからだ。それを受けアラスカは「弁護士が言った通りにしたのに・・・」と少々不貞腐れた様子。その姿は可愛くはあるのだが、自身の美学を貫くという”強さ”が欠けていた一端だったように思う。

アラスカは、シーズン5での不安要素をオールスター2では見事に払拭し、何倍にも強くなったアラスカを魅せてくれることになる。話は少し逸れるが、インスタなどで見る限りシーズン5に比べ最近の彼女は各段に美しい。強さと勝利を手に入れた者から放たれる自信の輝きなのだろう。

さて、シーズン5での優勝者をまだ知らない方もお気づきだと思うが、優勝したのはジンクスである。いじめ抜かれたコメディ・クイーンは、最後にティアラを着けた”シンデレラ”に変身するのである。では彼女が勝った決め手とは一体何だったのだろうか。勝手に分析してみた。

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揺るぎない自信とは?

シーズン4のシャロン・ニードルズのように、圧倒的な個性と、揺るぎない世界観を持つクイーンは、強い長所になる。シーズン5でのジンクスは同様に、なかなか評価されにくい独自の世界観を持ち、秀でた”ユニークネス”という武器を持っていた。

ジンクスがもともと評価に左右されず一貫して独特の世界観を保持できたのかと言えば、そうではないようだ。
「メインチャレンジで成功しても、ランウェイで酷評を受けると傷つく」と、ジンクスはワークルームで語っている。

しかし、彼女は自分が素晴らしいという事を決して忘れなかった。そして周りのクイーンに変人扱いされ、いじめ抜かれても、自分を信じ何度も奮起する姿に、人々は心を揺さぶられた。ドラァッグレースのような、しかもシーズン5のような強豪揃いのレースでは、一時の不安が敗退を招く。そんな状況でも自信を持ち続け、忍耐強く外れそうになる自らの心を軌道修正していったのだ。

もっともよく表れている言葉が、この言葉
『Water off a duck’s back(どんな批判でも気にしない)』

私は『自信』とは、『自らの長所や素晴らしさを、日々の”自己実現”によって強固にしていくこと』だと思っていた。しかしシーズン5でのジンクスを見て思うことそれは、
自信とは、『自らを継続的に信じ抜く忠心』
であることだ。

どんな批判が来ても、心を乱されたままにさせず即座に軌道修正を行い、自分を信じる心を継続的に保ち続けるのだ。ある種の訓練に近いかもしれない。この消化を繰り返し行うことで、「どんな批判でも来ても平気。だって私は素晴らしいから」と思えるメンタリティーへと成長できる。

まさにシーズン1でルポールが言っていた事そのものであった。 

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このように、『ル・ポールのドラァグレース』の良いところは、日常生活には不必要なくらい過剰なドラァグクイーンのメンタリティーを実感でき、新鮮な気づきを得られることだ。
己の中の『自信』についての定義を新たにし、ドラァグクイーンのような転んでもただでは起きぬ『自信』を持って生きていこうと、勇気づけられたシーズン5であった。


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