「ル・ポールのドラァグレース」シーズン7見どころ・感想

「ル・ポールのドラァグレース」の10を超えるシーズンの中で、『シーズン7』はあまり人気がないシーズンである。シーズン4のフィフィ・オハラのように、他を挑発しながら自ら高み目指すような劇場型クイーンや、シーズン5のジンクス・モンスーンのような、いじめられても立ち上がる雑草魂で勝ち抜くはハイライトシーンがそれほどなかった。
しかしシーズン7は、バイオレット・チャチキにミス・フェイムといった美女どころに、トリクシー・マテルやカティアというスーパースターを排出し、今なお人気を爆発させている。
そんなシーズン7の注目クイーンとともに、見どころと感想を語る。


ランウェイ課題がおもしろい

シーズン6は『ビアンカ・デル・リオ』という毒気のある大きな太陽がいて常に輝き、他のクイーンにもその光を照らし続けた。視聴者はあの輝きをもう一度!と、当然次のシーズンに期待が膨らむ。
それもあって制作サイドは万全を期したのか、出されるテーマは「よく思いついたな!」と感心するような凝った課題が多い。シーズン7に見る「ランウェイ課題のおもしろさ」について、まずは紹介する。

シーズン7の初回・エピソード1では『裸』がメイン課題とされた。結果的には、このテーマは失敗だったように思う。若く容姿も肌も美しければ、本物の裸で勝負できる。しかし、若さや肌に自信のない者は、臆するランウェイとなったことだろう。その前に、いくらか布で覆おうが『裸』という題材自体、あまりテレビ放送には適していなかったように思う。ただ、シーズン7は「攻める課題を提供する」という一貫したコンセプトの幕開けとしたら、強い印象づけになった。

お次は、シーズン6のミルクにインスパイアされた『髭を生やした美』を表現する課題。オーストリア出身のドラァグクイーンで歌手コンチータ・ヴルスト(Conchita Wurst)や、日本で言えばしりあがり寿著・漫画『ヒゲのOL薮内笹子』が思い起こされることだろう。
シーズン6のミルクは女装にご法度の「髭」という男性アイテムを、挑戦的にもドラァグを優劣を審査する場でファッションとして取り入れた。それにより実現したのがこの課題。「髭」と「女装」という矛盾する2つのテーマに、どう「美しさ」を取り込めるかという、実に見ごたえのあるおもしろいチャレンジであった。

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エピソード8では、一度脱落したクイーンが再集結し、生き残りクイーンと2人一組になり、『結合双生児』課題に挑戦した。『結合双生児』とは、なかなか斬新で敏感なところを突いてくると思われるが、バストが結合した双子というドラァグクイーンらしい発想で、印象に残るコスチュームとなった。

シーズン7の課題の中で最も私が気に入っているのが、エピソード10の『半分男・半分女』というもの。半分は素顔を披露することになるため、ご覧の通り、パールのイケメンぶりが飛びぬけて目立つという課題となった。
ランウェイ以外でも、男女半分の身体を使い、2人一組になって男から女、女から男と左右で入れ替わりながら社交ダンスを踊るからまたおもしろい。
男女が身体の向きだけで入れ変わるという動きのおもしろさもさることながら、半分のメイク、半分のウィッグ、半分の衣装と、見れば見るほど一体どーなっているのか、巧妙な細工に興味がわく。本当によく考え作りこまれた課題であった。

日本人にとって嬉しい課題は、何と言ってもエピソード11の『ハローキティ!』。あのキティちゃんが「ル・ポールのドラァグレース」のコスチューム課題として使われたのだ!
ご当地キャラクターになったり、中古車販売のCMでは毒舌で浪花節になってみたりと、日本全国津々浦々とお忙しいキティちゃんは、アメリカではドラァグクイーンとタッグを組むなんて、サンリオさんのふり幅の広さに驚きつつも、サンリオ万歳!なエピソードであった。

このようにシーズン7では、『裸・髭・結合・ハーフ・キティ』と、趣向を凝らしたおもしろい変わり種課題がたくさん詰め込まれている。課題に凝れば凝るほど、うまくハマるクイーンがいれば当然ハマらないクイーンも出てくる。その点で、演技派やコメディー・クイーンよりは、ファッショニスタにとって有利なシーズンであったのかもしれない。

大活躍するシーズン7のドラァグクイーン

シーズン7にはリーダー的存在がおらず、それぞれが個々で動いている印象があった。そのため、互いのタイミングが合わなかったり、演技への集中力がまちまちであったりと、チームプレイが極端に弱いシーズンであったと思う。
しかしたとえチームプレイは苦手でも、クイーンたちは個々の個性を放っていたからこそ、シーズン7出身のクイーンには、今でも人気者が多いのだろう。
シーズン7の愛すべきクイーンたちと、その活躍を紹介する。

愛すべきクイーンたち
◆バイオレット・チャチキ(Violet Chachki)

誰もが憧れ見惚れる、そしてひれ伏すほど驚異の美貌の持ち主・バイオレット・チャチキ。自信家で美しすぎるがゆえに陰のあるクイーンに思えるが、他のクイーンが健闘する素晴らしいリップシンクを見た後には、その賞賛を感動のままに(やや野太い)大声で叫んで表現したり、ミステリヤスな外見からは想像できない熱い少年っぽさもまた、シーズン7では魅力的に映った。
ドラァグレースを代表する数々の名コスチュームを披露し、シーズン7を最もファッショナブルなシーズンに仕立てたヒロインである。

◆カティア(Katya)

ドラァグレース卒業クイーンの中で一番と言っていいほどの愛されクイーンは、カティア。その愛され度と言ったら、シーズン7・優勝者発表直前のルポールに遊ばれるほどである。(シーズン7のハイライトシーンと言ってもいい)
人懐っこく明るくて、人々を笑わせてくれるカティアだが、優れているのはキャラクターだけでない。
オールスター・シーズン2は、シーズン5の実力者集団・ロラスカトックスと互角に戦える実力者であることも証明した。どのクイーンからも、そしてファンからもみんなに好かれているのが、カティアである。

◆ジャスミン・マスターズ(Jasmine Masters)

女装に似合わぬダミ声と、明るく陽気な性格、そしてやや出っ歯。一度見たら忘れられないドラァグクイーンがジャスミン・マスターズだ。シーズン9ではニーナ・ボニーナ・ブラウンがスナッチゲームでものまねするほど、ジャスミンは特徴的なクイーン。おしゃべりで場を明るくし賑やかしてくれるクイーンの存在は、ドラァグクイーンにとって絶対必要枠だ。日本で言えば日出郎に近い、と個人的に思っている。

◆トリクシー・マテル(Trixie Mattel)

シーズン7終了後にはじまったカテァアとトリクシーのコメディトーク番組『UNHhhh』が人気。その後カントリー歌手としてCDもリリースし、人気に拍車がかかり、とうとうオールスター3で優勝するまでに行きついた。シーズン7のファイナルで「ドラァグでやっと生活ができるようになった」と涙ぐんだトリクシーが、現在の大活躍までたたどり着いたと思うと、感慨ひとしお。

◆ジンジャー・ミンチ(Ginger Minj)

シーズン7を見ればわかる通り、ジンジャー・ミンチは”芸達者”である。間のとり方といい声の張りといい、橋田寿賀子ドラマや仲代達也の無名塾にいても不思議でないほどの、安心と感動を呼ぶ演技力である。往年の香りがするからか、SNSではどうやら若い子には不人気だったらしいが、彼女の才能は隠しようがなく、表情豊かなパフォーマンスに惹きつけられずにはいられない。シーズン7後は、オールスター2にも出場した。ジンジャーをはじめオールスター2の出場クイーンによる下記のミュージカル・パフォーマンスは必見である。

◆テンペスト・ドゥジョア(Tempest DuJour)

シーズン7ではもっとも早くにsashay awayしたテンペストだが、Netflixで配信中の映画『チェリー・ポップ』で、生きる気力を失い自殺を試みる伝説のクイーン・ザザという、この映画のキーパーソンとなるいい役を演じている。
馬鹿らしくも真剣に自殺を図る”オネエ”の哀愁を感じる芝居がとても上手で、いろんなテンペストも見てみたいと感じさせる。最初に脱落するクイーンとしてはもったいない人物である。

◆ミス・フェイム(Miss Fame)

ドラァグを超え、スーパーモデルとして、メイクアップアーティストとして世界を飛び回るミス・フェイム。国際的に有名なモデル事務所に所属し、ドラァグクイーンで初めて自身のコスメブランド”Miss Fame Beauty”を立ち上げた。
繊細なメイク術と妖艶な美しさ、そして異次元なほど完璧なスタイルは、羨望を超えもはや神々しくさえ見える。セレブなミス・フェイムの輝きに吸い寄せられ、目が離せなくなるのが人気の要因かもしれない。

インスタ女王

人気という点を分かりやすくインスタグラムのフォロアー数で示していくと、「ル・ポールのドラァグレース」に出場したドラァグクイーンのインスタグラムで、フォロアー数が100万人を超えているクイーンは25人、そのうちシーズン7人に出場したクイーンは、なんと5人もいる。
トリクシー・マテル(Trixie Mattel)、カティア(Katya)、ヴァイオレット・チャキチ(Violet Chachki)、ミス・フェイム(Miss Fame)、パール(Paerl)の5人だ。

なかでも、トリクシーとカテァアはインスタグラム・フォロアー数170万人超え!ちなみに25人中フォロアー数ナンバーワンは、“絶対女王”シーズン6のビアンカ・デル・リオ(Bianca Del Rio)の200万人超え。ビアンカに続くのが同じシーズン6のアドレ・デラーノ(Adore Delano)の190万人。続いてシーズン8のキム・チー(Kim Chi)となり、トリクシーとカティアは、その次あたりにくる。

参考のため、ルポールのインスタグラム・フォロアー数は347万人。トリクシーのインスタグラム・フォロアー数は、日本なら女優の土屋太鳳(日本国内インスタグラム・フォロアー数ランキング60位内)と同じくらいの数になる。(インスタグラム・フォロアー数含む数値はすべて2019年9月現在のもの)

個々は素晴らしい!けれど・・・

こんなにも人気・実力を兼ね備えたクイーンが多くいるにも関わらず、なぜシーズン7がそれほど振るわなかったのか。
それは、「まとめ役がいなかった」ことが要因ではないかと感じる。

シーズン5には、客観的に的確な言葉を放つビアンカ・デル・リオがいた。シーズン8には、笑いで人を巻き込むボブ・ザ・ドラァグクイーンがいた。シーズン10には世話好きなエイジア・オハラがいた。
シーズン7には、リーダー的存在もまとめるのに長けたマネージャー的存在のクイーンも、これといって思い浮かばない。もしくは、まとめる能力のあるクイーンが、早々にsashay awayしたのかもしれない。
シーズン7では、全員が”プレイヤー”であった。
では、監督やマネージャー不在のチームはどうなるのか。「個」のバランスは抜群でも、「全体」のバランス感覚が希薄になりがち。
ということで、ランウェイ以外のショー・演技・パフォーマンスにおいて、シーズン7のチームワークはいまいちであった。

加えて、何だか相性が合わない。クイーン同士は仲がよいのかもしれないが、ケミストリーが生まれていなかった気がする。

シーズン9で言えば、シア・クーリーとサーシャ・ベロア。この二人が組んだことにより、サーシャ・ベロアのややお堅い部分を、シアが”愉快”なものに変化させ、共に高め合うことができた。シーズン5では、ジンクス・モンスーンが誰に何と言われようとコメディエンヌに徹することで、アラスカもまた自由にコメディエンヌを決めることができた。
それに比べるとシーズン7は、一人ひとりは輝きすぎるくらい輝いているが、「相乗効果」が乏しかった、となるのではなかろうか。

シーズン7の欠点をえぐってしまったが、基本的にシーズン7はここに書くほど好きなシーズンであるし、見ていて楽しかった。
シーズンごとに特徴があり、それぞれカラーが違うからこそ、ひとシーズン終わった後少しはロスに浸るものの、また次のシーズンへと胸を膨らませることができる。それが「ル・ポールのドラァグレース」のシーズンが長く続いている秘訣だろう。



まわる、まわるよ。

これは個人的な見解だが、ドラァグレースにおいてシーズン7を境に、見せ方や人気が出るクイーンに関して「時代が切り替わった」、そんなシーズンであったように感じる。

多くのショーを経験し、叩ぎ上げでやってきたクイーンよりも、『映える』クイーンがアイドル的人気になる。
例えばシーズン7以前は、何度でも立ち上がるガッツやクイーンの心の成長などを見ては、人間的魅力に惹かれ応援したくなる。またそのように番組が構成されていた。

そしてシーズン7あたりからは、根性や度胸で勝ち抜くクイーンよりも、元々の素材も良くかつ美しく、スポコンのような泥臭さはなく、自らの魅力をさらりと発信できるクイーンに人気が集まっている。

例えるなら、路上ライブや手売りCDから始めようやくメジャーデビューを果たしたアーティストと、スマホの音楽アプリで何気なく曲を作り、YouTubeにアップしたらあっという間にメジャーデビューしたアーティストのような、「時代の差」を感じるのだ。
もちろん、その両方が素晴らしい才能の持ち主であり、どちらが正解か不正解かはない。結果的に素晴らしければいいのであるが。

時代を感じる理由は、恐らく番組を見ているファン層にも変化があったに違いない。
シーズン7がアメリカで放送されたのは2015年。その頃日本は、2015年時点でインスタグラムの月間アクティブユーザー数が810万人だったものが、2017年の2年間で2000万人を超え、約2.5倍に増加したというデータがある。
また、「ル・ポールのドラァグレース」出場のドラァグクイーンとファンの交流イベントである「RuPaul’s DragCon LA」が始まったのが、2015年になる。
女子高生が女性アイドルの追っかけになるように、SNSを利用する若い女性のファンが拡大し、「綺麗」「カワイイ」「なりたい」という感情が、ファンになる動機づけになっているような気がする。

私自身当然ながら目を奪われる美しさを持つバイオレット・チャチキも、毒のあるバービーみたいで見ていて楽しいトリクシー・マテルも大好きだ。
その一方で、安心しながら笑えるミセス・カーシャ・デイヴィスや、その芸に関心しっぱなしのジンジャー・ミンチなど、酸いも甘いも噛み分け鍛え抜かれたワザに、魅力を感じずにはいれないのだ。

若い子に言わせればそれが、「時代」ってやつだろう。


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